鹿児島県庁で活躍する西村 元一さん

卒業生
2024.6.20

自己紹介

鹿児島県曽於市出身。2000年3月、鹿児島大学法文学部法学科(現法経社会学科法学コース)卒業。同年4月、鹿児島県庁に入庁。総務・企画・観光関係の部署での経験のほか、国土交通省への出向や鹿児島県香港事務所への駐在等を経て、2024年4月より、PR観光課海外誘致係にて勤務。

大学での学び、学生生活

三人兄弟の真ん中。経済的な事情もあり、地元の国立大学ということで、鹿児島大学法文学部へ進学。身近な問題を法的視点で考えることに興味はあったものの、入学当初は明確な将来の目標はなく、しばらくは、学業はそこそこに、体育会系のサークル活動と、ホテルや居酒屋などの接客業のアルバイトに明け暮れる毎日。

また、一時は、都会での生活への憧れから、東京の大学に進学した友人宅へ転がり込み、主要観光地やキャンパス周辺を巡ってみたものの、家賃等の生活費は高いし、どこに行くにも大混雑。何より、標準語っぽいイントネーションで話そうとする自分自身に少し嫌気も差して。「ここは、田舎者の私にとって、生活するところではなく、たまに遊びに行って刺激をもらうところだな」と痛感したことを覚えています。海や山など、体感できる自然環境が身近にあって、美味しい食べ物が豊富な鹿児島での暮らし。こんな贅沢な生活はないですから。

ゼミは、民法ゼミを希望したのですが、希望者多数のため叶わず。刑法ゼミを選択し、以前から関心のあったロッキード事件や正当防衛の相当性について理解を深めました。公務員になったゼミの先輩の影響もあり、この頃から、私も公務員を目指すように。公務員試験であれば、専門科目に法律系科目があるので、大学での勉強がアドバンテージになることと、自分を育ててくれた鹿児島の発展に、微力ながら貢献したいと思えたからです。

振り返ると、大学生活の4年間は、自分は将来、何に打ち込みたいか、どんな生活をしたいかを、ゆっくり考え、向き合った時間でした。

県庁での取り組み、これまでの業務、経験

現在、私は、鹿児島県庁PR観光課で、県内への外国人観光客の誘客に取り組んでいます。実は、この部署は二度目の勤務で、一度目は、30代前半に担当として従事しました。私の県庁でのキャリアは、この一度目の観光課(現在のPR観光課)での勤務以降、海外関係の業務が中心となっています。

一度目の観光課では、台湾からの誘客を担当し、主な業務は、台湾現地の旅行会社やメディアに対して、鹿児島県内の観光地の魅力を紹介することで、当時、台湾でも人気だったNHK大河ドラマの「篤姫」に関連した観光地や、肥薩おれんじ鉄道でのおもてなし、はやとの風などの観光列車の旅を商品化していただきました。観光課2年目には、官民の悲願であったチャイナエアラインによる「鹿児島-台北線」の定期便が就航し、これによって、台湾から鹿児島へのツアーが一気に多様化。仕事は忙しかったですが、海外の方が鹿児島の旅を楽しんでいただいていることが、一県民としても誇らしく、とてもやりがいを感じる仕事でした。

官民合同台湾セールス(1)
官民合同台湾セールス(2)

観光課の次は、海外事務所である鹿児島県香港事務所へ赴任。当時のミッションの1つに、「鹿児島-香港線」の定期便を新規就航させることがありました。多くのハードルはありましたが、幸運にも、香港の旅行会社EGLツアーズの御協力によって、香港から鹿児島へのプログラムチャーターを2年連続で運航いただき、また、経済界や県議会をはじめとした、多くの関係者のみなさまのお力添えもあって、着任2年目に香港航空による「鹿児島-香港線」の定期便が実現しました。

この定期便の就航によって、香港での鹿児島県の知名度が一気に上がり、香港から鹿児島への旅行客の増加はもちろん、香港のデパートやレストランで、鹿児島県産の牛肉や黒豚、ブリ、さつまいも、焼酎等の販売機会が増えるなど、県産品の販路拡大に繋がりました。また、ご存知のとおり、香港は、天然の良港を持つ地理的な優位性と、低関税等の自由貿易政策によって、アジア地域の貿易のハブ。そしてまた、国際金融・商業都市でもありますので、海外進出を目指す県内企業のみなさまにも定期便を利用して香港にお越しいただきました。定期便就航の立役者であるEGLツアーズの袁文英社長は、現在も、日本と香港の交流のために、御尽力いただいており、本当に感謝しかありません。

初めての海外生活となる香港では、多くの貴重な経験をさせていただき、それまでの価値観にも変化がありました。一番衝撃的だったのが宗教に関する考え方です。ある香港の友人から、自身の宗教を尋ねられた際、私はとっさに、「無宗教」と答えてしまいました。実際には、仏教徒(浄土真宗)なのですが、それまでの生活の中で、宗教を意識したことはほとんどなく、毎年12月にはクリスマスを祝い、大晦日にはお寺で除夜の鐘を聞き、年が明けたら神社で初詣をする私は、宗教の話題自体がタブーであるかのような感覚を持っていましたから。すると、その友人は続けて、「君は、信念や哲学を持たないのか。」と、少々困惑顔。海外では、相手のバックグラウンドを知る1つの手段として、宗教を聞く場合があることを知りましたし、また、同じように、ふるさと鹿児島のことをよく聞かれました。知り合いがほとんどいない海外で、信頼を得ながら仕事を進めていくために、自分自身のアイデンティティを確立することの重要性も感じましたし、私の場合は、大好きな鹿児島の自然や文化、食べ物や観光地などを香港人に伝えていく仕事を通じて、それらを徐々に獲得することができました。

香港の高級中華料理店で桜島大根を使ったメニューを提供
香港のシェフへの鹿児島黒牛をPR

香港事務所の次は、交通政策課で国際線誘致を担当し、ソウル線、上海線、台北線及び香港線の維持拡充や、新たな路線の開拓を担当。その後、副知事秘書を経て、外国人材受入活躍支援課では、コロナ禍において鹿児島で暮らすベトナム人をはじめとする外国人の技能実習生等の活躍支援等を担当するなどし、2024年4月からPR観光課で、これまでの経験や人脈を活かしつつ、海外からの観光客の誘客による観光の稼ぐ力の向上に努めているところです。

ベトナムの旧正月(テト)を祝うイベントを開催
鹿児島県内のショッピングモールでのベトナムフェア

在校生(後輩)や保護者に向けての一言

近年、インバウンド観光客の増加だけでなく、海外から九州への企業立地や投資も進んでいます。今後、鹿児島に住みながら、グローバルな仕事をする機会も増えていくでしょう。

私は、30代になってから、海外との繋がりを持ちましたが、社会人になると、まとまった休みをとることが難しくなりますので、できれば学生のうちに、海外旅行や留学などで、海外の見聞を広めておくべきだったと感じています。

海外に行くことはできなくても、鹿児島で暮らす留学生等との交流を通して、多くの気づきがあると思います。言葉や文化の異なる者同士が、お互いに理解し合い、受け入れ合う。自分や、自分の子ども達が海外で生活することを想像してみると、鹿児島を選んで生活している外国人の方々との接し方にも変化があるかもしれません。

学生のみなさん、日々の生活で余裕はないかもしれませんが、自分への投資だと思って、海外へ飛び出してみてください。上海や香港には、鹿児島県の事務所もありますので、事前に御連絡いただければ、現地の経済状況等のブリーフィングも可能です。また、保護者のみなさまにおかれましても、是非、そうした学生のチャレンジを応援していただければと思います。

現在、鹿児島空港国際線は、アジアの主要都市であるソウル、上海、台北及び香港と結ばれており、また、これらの都市を経由して、さらに世界中に羽ばたくことができます。県では、鹿児島空港国際線利用の40歳未満の鹿児島県民の方を対象に、パスポート取得助成を行っていますので、是非、こうした制度も御活用ください。