鹿児島県庁で活躍する本田豊洋さん

卒業生
2023.9.12

自己紹介

鹿児島県南さつま市出身。1994年に鹿児島大学法文学部法学科(現法経社会学科法学コース)卒業。ツアーカメラマン・添乗員の経験を経て、1995年に鹿児島県庁入庁。2017年4月から2020年3月までの3年間、鹿児島大学に派遣され、法文学部法経社会学科地域社会コース准教授。現在、鹿児島県環境林務部 廃棄物・リサイクル対策課長。

鹿児島大学法文学部への入学経緯について

正直に言うと、最初から地元の鹿児島大学を志望したのではなく、第一志望の県外大学(経済学部)受験に失敗したからです。成り行きで鹿大で「法律」を専攻することになったのですが、そのことは、県庁職員となってからのキャリアに大きく影響しました。

今思うと、自分には法律の方が合っていたような気がしますし、鹿児島大学で学生生活を送ったことが、仕事や家庭、趣味など、今の自分自身の大きな基礎となっています。

どのような学生時代を送りましたか?

将来、大学の教員になるなんて全く想像すらしていなかったため、とてもお恥ずかしい話なのですが、勉強の方は「卒業できればいいかなぁ」という程度にしか考えておらず、サークル活動のオーケストラに没頭していました。

2年生の終わりに、同世代の人材不足からコンサートマスター(オーケストラ全体の代表となる奏者)を引き受けることになりました。大学からヴァイオリンを始めた初心者が務めることは前代未聞だったため、これはみんなに迷惑をかけられないと、朝から晩まで必死に練習しました。最後の演奏会を無事終えて(私が務めることに大反対していた)指揮者の先生に認められたことは、今でも人生の糧となっています。

学生時代に困難なことにチャレンジすることや大きな組織の運営に携わるという点では、とても貴重な経験をさせていただきましたが、やはり勉強ももっと真剣にすべきでした。時代が違いますので、学生さんたちは決して真似しないでください(笑)。

卒業後の進路は?

学生時代にご縁のあった東京のクラシック音楽専門の音楽事務所に誘っていただきましたが、挨拶のため大学4年生で生まれて初めて行った東京で、あまりの鹿児島との環境の違いに愕然とし、やはり地元鹿児島で働きたいという思いが強くなりました。

それならばと、学生時代4年間ずっとお手伝いをしていた霧島国際音楽祭を主催している「県庁」に入りたいと考えました。

卒業後、県庁入庁まで1年間のブランクがあったため、団体旅行の添乗員やカメラマンをしていた経験は、その後のライフワークにも繋がっています。

県庁では、これまでどんな業務を?

「音楽など文化振興に関わる仕事をしたい」くらいの気持ちで入った県庁でしたが、最初に担当した業務は「農業振興」。その後も、福祉や税など様々な業務を経験するうちに、県庁の業務(県民を支える役割)の幅広さを実感し、いろいろな業務に興味が湧いてきました。

特に、大学で法学を専攻した職員だけが配置される法務部門には、3回も勤務しました(担当、係長、課長級職として)。法律に従って業務を行うことはどの部署に行っても必要なため、ここでの経験はたいへん役に立っています。

奄美大島での勤務も大きな経験となりました。県政に携わる者として、やはり離島の実情を知りたいと希望して行きましたが、本土とは異なる独自の自然や文化をどのように守り伝え、振興していくかということは、鹿児島県にとって重要なテーマとなっています。

そして今年の4月からは、廃棄物・リサイクル行政を担当しています。これまで勤務経験はありませんでしたが、世の中のSDGsやカーボンニュートラル達成へ向けた流れからも大事な分野なので、しっかり対応したいと考えています。

県庁職員としての生活や得られた経験について

子供たちが小さい時期に奄美大島の大自然に囲まれて過ごした3年間は、家族にとってもかけがえのない期間となりました。その後、海外でも楽しむようになったスキューバダイビングとの出会いも、このときでした。

また、県庁では研修の機会も充実していて、私の場合はアメリカのジョージア大学に半年近く留学させてもらいました。大学での学習だけでなく、現地の大学生とルームシェアしたり、運転免許を取得し自分の車でいろんな州を巡ったりする中で、海外との比較で日本や鹿児島を見つめ直す貴重な機会となりました。

最近では、休日に同僚職員たちと「県庁コミュニティ大工クラブ」という活動をしていて、地域の空き家再生やコミュニティ活性化のお手伝いをしています。所属や役職を抜きにしていろんな世代の職員と、地域の課題や発展性を探りながら充実した活動ができています。こんな活動にも、法文学部地域社会コースでの教員経験が生かされているような気がします。

県大島支庁職員で奄美まつりに参加
県庁コミュニティ大工クラブの活動

その鹿児島大学法文学部での教員経験は、県庁職員から大きな転機となりましたね。教員として大切にしていたことは?

自分自身が在学中にあまり勉学に積極的ではなかった反省から、「どうしたら学生たちが興味を持って自分から学びたい、行動したいと思うか」ということに主眼を置きました。また、多くの公務員志望の学生は、公務員試験の学科試験をパスするための勉強に一生懸命ですが、公務員となったとき、それ以上に求められる素養が身に着けられるような授業をしたいと常に考えていました。でもそれは、私の中で「学生時代に学び足りなかったことを、自分自身が学び直したい」という潜在的な思いが強かったからではと思います。

私は、赴任した年に新設された「地域社会コース」に配属されましたが、県庁時代の知識・経験だけでは、コースの目的である「地域社会の理解を深め、地域社会の課題を解決できる人材を育成する」ために十分な教育内容が思い付きませんでした。一方で、県庁職員としての経験は長いため、職員(公務員)としてどのような人材が求められているのかということは分かります。

そこで、講義にはテーマに関連して現場の第一線で活躍している方々をゲストに招いたり、学生と一緒に様々な場所を訪れて、地域で直接いろんなことを学んだりしながら、多様な立場の方々と協働して取り組む学習を中心に行いました。

学生が大学に求めるもの(潜在的な気持ちに気付かせることが大事ですが)と社会が学生に求めるもの。理想ではありますが、そこを両立できるような授業やゼミ活動を目指していました。

県主催の高校生育成交流事業の運営に参加
鹿児島市ロゴマークづくり事業の運営に参加

大学教員時代の印象に残っていることは?

教員最後の年に行われた県主催の政策アイデアコンテストにおいて、大学生の部全ての賞を、なんとゼミ生により構成された5チームが受賞しました。また、ゼミ生の一人はゼミ活動等の経験を元に、学長から「進取の精神学生表彰」を受けました。これらの表彰を受けたことは、ゼミ生たちの頑張りによるものが大きいですが、私自身の大きな励みにもなりました。

また、地域社会コースをはじめ、法文学部内外の先生方といっしょに様々な取り組みを行ったことから、私自身大きな刺激を受け、格段に視野が広がった気がします。特に、同じ地域社会コースの酒井佑輔准教授による南米研修に同行した際には、ブラジルの大学でのシンポジウムにおいて、学生と一緒に「鹿児島の離島振興策」について発表する機会もいただき、地球の裏側から鹿児島について発信する貴重な機会となりました。

海外といえば、ベトナムやインドネシアへのゼミ研修旅行を実現し、学生たちと一緒に発展著しいアジアの新興国のパワーを体感しながら見聞を広めたことは、文化、経済、自然との共生など学ぶべき要素も多く、様々なゼミ活動の中でもハイライトとなるものでした。

何人かの県外出身の学生からは、「高校生のときに本田ゼミの活動等をSNSや法文学部HPで見て、鹿児島大学を志望しました!」と声をかけられました。これは、とても嬉しかったですね。

教員時代にゼミや授業、サークル(オーケストラや顧問をしていたボランティアサークル)等で関わった学生たちには、現在、県庁の同僚として第一線で活躍中の方も多くいます。これ以上の教員冥利に尽きることはありません!

業務とは関係ないですが、教員時代は比較的柔軟に時間が使えたため、大学の夏休み期間を利用して、当時大学生だった息子と二人で車を運転してアフリカ大陸最南端のアグラス岬まで到達できたことは、親子での一生の思い出となりました。

県政策アイデアコンテストで入賞を独占
南アフリカにて

これまでのいろんな経験はどのように生かされていますか?

これまで県庁職員として、いろんな部署で職務経験を積んできました。離島勤務や大学教員としての出向もあり、不慣れな環境での初めての業務を不安に思うこともありましたが、それらを受け身に捉えず、新たな経験や自己開発のチャンスとして考えて様々なことに挑戦してきました。

新しい業務を仕事のためと割り切るのではなく、与えられた環境をベースに、さらに興味を持って+αに取り組んだことで、職業人としての成長だけでなく、より自分らしく楽しい人生を送られてきたような気がします。

インドネシア(バリ島)ゼミ旅行

最後に、在校生及び保護者に一言お願いします。

鹿児島県は全国でも高齢化・過疎化が進んだ地域が多く、また南北600kmにわたり離島地域を含む広大な県土を有しています。このことから、日本の未来の課題先進地とも言われており、また、日本の国土や資源を守るたいへん重要な地域でもあります。

その鹿児島において人生の方向性を決める大事な時期を過ごしながら、地域的課題やグローバルな視点から現代社会の諸課題を解決する人材の育成に積極的に取り組んでいる鹿児島大学法文学部で学ぶということは、非常に意義深いことだと思います。

学生の皆さん、今は意義を感じられないようなことでも、その一つ一つが後々大事な意味を持ってくるかもしれません。何事にも好奇心を持って積極的に取り組んで、充実した学生生活を送ってください。

保護者の皆様も、お子さんの学びたいという意欲やチャレンジに対し、ご自身の経験からの助言や、温かく背中を押してあげることを、ぜひお願いします。