トルコのアンカラ大学に留学中の田中日香里さん

在校生
2022.3.8

簡単な自己紹介

熊本出身。2017年に法文学部法経社会学科地域社会・経済コースに入学。1年次は4つのサークルを掛け持ちしながら、アルバイトに明け暮れる。2年次から地域社会コースの酒井ゼミに所属し、海外研修への参加、留学生の個人チューター、留学生との宿泊型防災訓練の運営、騎射場エリアの地域活性化を意図した鹿児島騎射場のきさき市のボランティアなどを経験する。3年次にトビタテ留学JAPANに選抜され、4年次からインドネシアへ留学の予定だったが、新型コロナウイルス感染症蔓延のため延期・渡航先変更・棄権。現在は2022年2月から協定校派遣留学制度を活用してトルコのアンカラ大学に留学中。

大学ではどんなことを学んでいましたか。

ゼミの活動では、社会科学の分野において事実を調査するために、①質問技法、②ファシリテーションの技法、③情報の分析方法などを学びました。例えば、質問技法に関して、相手が毎日食べている朝食の内容を聞き取りたいとき、「普段朝食は何を食べますか?」「好きな朝食は何ですか?」「今日の朝食は何を食べましたか?」と聞くとします。これらの中で事実を聞き取ることできるのは最後の質問のみで、「普段朝食は何を食べますか?」は「普段朝食は何を食べ(ていると思い)ますか?」と相手の主観を聞いているのと一緒であり、事実を聞き取ることはできないと知ったときが印象に残っています。質問によって答えが変わってしまうのは当り前のことですが、社会科学の分野においては、「事実」を調査するための技法や心構えを常に念頭に置かなければならないと感じました。他にも、ブラジルの教育思想家パウロ・フレイレの文献購読やディスカッションを通して、学習者を主体とした批判的思考の形成や対話的教育が重要である一方で、その実践が現在の日本の学校教育で困難且つ50年間同じ議論が繰り返されていることを知りました。また、留学生との宿泊型防災訓練プロジェクト運営等を通して、文献購読や知識習得と同等に現実社会で起こっている事実を拾い上げて認識し、机上の空論にならないようにすることの重要性を感じました。
短期海外研修では、サンフランシスコでのホームレス支援ボランティア団体への参加や、ソノマ大学で持続可能性に関する講義受講、ホストファミリーとの共同生活を経験しました。そしてカリフォルニアにおける地域住民同士の連携、多文化共生、SDGsを目指す原動力の源には、宗教、教育、移民の3つが絡まり合っていることを学び、日本との相違点を見つけることができました。
また、一人の人間として学んだことも数多かったです。聴き取り調査の技法や心構えを学んだことで人とのコミュニケーションの取り方を知り、自分の問題意識と向き合うことで本当に興味がある分野や自分の人間性を知り、少しでも社会を良くしようと頑張っている大人たちの情熱や姿勢を見て、一生懸命な姿が格好良く自分もこうなりたいと気づきました。

留学を希望した理由はなんですか。

端的に言うと、自分自身を宗教的マイノリティになる環境に置きながら、礼拝所(モスク)に関する知識習得のみでなく、そこを中心としたイスラム教信者(ムスリム)を含んだ人々の活動の参与観察、聴き取り調査をしたかったからです。2年生の時の「防災×多文化共生」をテーマにした留学生との宿泊型防災避難訓練の運営(訓練の詳細はこちらをご覧ください。)と、アメリカへの短期研修の参加をきっかけに、災害発生時の多文化共生について興味を持つようになりました。そこから、高校3年生の時に経験した熊本大地震の被災・避難生活の記憶と、多文化共生という広い意味から誰を対象とするか考え繋ぎ合わせた結果、特に興味と問題意識があったのが、日本における災害発生時のムスリムとの共生・共存でした。そこで、ムスリムとモスクに関する知識をより深めることと、宗教的なマイノリティになる経験を得ることを目的に、ムスリムが多数派である国への留学を志望しました。
留学を希望した詳細としては、まず初めに、留学生の個人チューターや熊本モスクでの参与観察と聴き取り調査を通じて、ムスリムはハラル料理などの宗教的制限がある故に「手助けしなければならない社会的弱者」であることばかりが主張されがちだと気がつきました。確かに事実として、ムスリムは豚肉とアルコールが禁止されているので、避難所での豚汁など食べることができないものがあることや、逆に外国人が多い地域の避難所では、外国語が飛び交う雰囲気に圧倒されて日本人が利用を拒んでしまうこと、外国人がいるという情報を得た同じ母国の住民が一か所に集まってしまうため許容人数を超過してしまうこと、文化の違いに対応する避難所利用ルール作成など、改善して広く周知すべきこともあります。しかし一方で、ムスリムが利用するモスクは日本全国にある他のモスクとの強いネットワークを用いて災害時に物資を早急に用意したり、子どものための勉強会を行ったり、住民同士で情報交換を行ったり、他の住民とのコミュニケーションをとる社会教育施設的機能を有していると考えられます。したがって、日本に住むムスリムの拠り所になるのみでなく、日本人地域住民に対しても同様に災害発生時の物資提供の場として、普段の社会教育の場として、多文化共生を促進する可能性を持つ施設であると推測しています。さらに、地域住民の理解を得る為に定期的な説明会や異文化交流会、ご飯会など社会的活動を日本人住民に向けて開催している所もしばしば見受けられ、住民同士の相互理解促進を担う施設ではないかと思います。したがって、モスクに関する知識習得とモスクの活動を観察しながら、社会教育施設と比較するため、ムスリムが多数派である国への留学を希望しました。

トルコでの生活はいかがですか。

トルコに来て約2週間経ちました。初めは、トルコの人達のゆっくりとした時間感覚や、建物の中では煙草が吸えない且つ喫煙所が少ない故に歩き煙草が多いことなど、日常生活における当り前の違いに戸惑いを感じました。しかし、トルコ語が分からない私を急かさず快く待ってくれる人が多く、普段見ない東アジアの顔と文化に対して好奇心旺盛で、困っている人を見ると手を差し伸べるような人が多いことも知りました。これからの一年間どれだけの成果を得られるか、自分の挑戦具合で大きく変わってくると思うので、今まで以上に積極的に色んな事に参加していこうと思います。

今後の目標はなんですか。

学部卒業後は大学院への進学を考えています。大学院修了後の仕事はまだ決めかねていますが、公務員も視野に入れて、その時自分がしたいことをしてみようかなと思っています。目標は、常に謙虚に学び続ける大人でありたいと思っています。

最後にメッセージ

実は私は、初めは鹿児島大学での社会科学に関する学びに積極的ではありませんでした。高校時代は生物が大好きな理系学生で、別の大学への進学を希望していましたが受験に失敗、安定した公務員になるために経済を学ぼうと鹿児島大学に来ました。そこで仕方なしに必修科目をとっていて、コース選択の時に経済コースを選ぶつもりが、まさかの提出期限の勘違いで提出が遅れ、当時定員が空いていた地域社会コースに入りました…(笑)
このように、元々興味が無いところに行った為、法文学部の自由な環境に助けられました。自由科目で他学科の講義を受講できるので、地域社会コースに入った後にも経済コースや人文学科の講義、高校時代好きだった生物に関する医学部の講義など幅広く横断的に学ぶことができました。そして、専門分野は混ざり合っていて、自分が興味ないと思っていたことでも、興味あることと結び付けられることにも気が付きました。また、ゼミに関しては、失敗を快く受け止めてくれる、寧ろ沢山失敗してくださいというような環境でした。そのおかげでポンコツでも気にせずに、自分の興味関心がある方に気軽に足をのばして留学までたどり着きました。
ここまで長々と書きましたが、この文章を読んだ人が、そんなにできた人間じゃなくても、挑戦してみたら意外と大学生活を充実させられるんだと思ってもらえたらいいなと思います。そして、もしコロナやその他厳しい環境で留学や在学・進学を諦めかけている学生さんがいたら、遠慮なく先生方や先輩、相談室などに助けを求めてほしいなと思います。意外と救いの手は身近なところに転がっていて、一歩踏み出してみると温かく迎えてくれる方がいらっしゃいます。コロナで思った通りに行かずうんざりするような生活かもしれませんが、生きているなら大丈夫、何でもできます。お互い頑張りましょう。