『コロナ禍からみる日本の社会保障-危機対応と政策課題』を出版
本書は、新型コロナの感染拡大で明らかになった日本の社会保障の制度的脆弱さと政策課題を、私の専門の社会保障法学の視点から考察し、今後の社会保障の法制度・政策の方向性を提言したものです。
日本国憲法25条は、国民の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権といわれます)を明記し(1項)、生存権を保障する国(自治体も含む)の公的責任を規定しています(2項)。しかし、現在の政権は、公的責任を後退させ、急性期病床や保健所など公的機関を削減し、社会保障の公的サービスを切り下げてきたため、雇用保障・生活保障が機能不全に陥り、コロナ禍の中で、多くの人が生活困難や自殺に追い込まれています。
とくに医療・保健政策に関しては、病床削減や保健所の削減といったこれまでの政策の結果、コロナに感染し重症化しても病院に入院できず医療がうけられないまま自宅で亡くなる人が続出するという事態を招きました。そうした事態を2度と起こさないために、医療費抑制政策を転換し、検査体制と医療提供体制を拡充することを提言しています。なお、本書でまとめた医療政策に関する提言については、出版前の2020年5月に、開業医の団体である鹿児島県保険医協会の方々とともに、鹿児島県に要望書として提出しています。
現在は、コロナ禍に加え、ウクライナ戦争を契機にした食料品・エネルギー料金の値上げが重なり、多くの国民が生活苦・生存(権)危機にさらされています。いまこそ、本書で提言したような社会保障の充実が求められているといっていいでしょう。新型コロナのパンデミックに端を発した戦後最大の国民生活の危機に立ち向かうための社会保障の拡充・再構築に向けて、今後も研究を続けていきたいと考えています。
そのほか、『社会保障法-権利としての社会保障の再構築に向けて-』(自治体研究所、2021年)では、公的扶助(生活保護)、年金、社会手当、医療保障、労働保険、社会福祉にわたって社会保障の法制度や判例を検討しており、法文学部と医学部保健学科での講義(社会保障法と保健医療福祉行政論)のテキストにも用いています。一般読者向けに、消費税の仕組みと社会保障財政、医療・介護・年金・子育て支援の政策動向をわかりやすく解説した『消費税増税と社会保障改革』(ちくま新書、2020年)も出版しています。(法経社会学科法学コース 伊藤周平)
*伊藤先生の近著に関しては5月3日付の南日本新聞朝刊でも紹介されました。